現代人は自然欠乏症!「あなたの子どもには自然が足りない」(リチャード・ルーブ)
現代人が1日に受け取る情報の量は、平安時代の人の一生分、江戸時代の人の一日分といわれます。
総務省の統計によると、データ流通量は1996年からの10年で530倍、最近でも年間15%増え続けています。加えて、都市化。大都市に44%、地方都市に47%と、日本ではほとんどの人が都市に住んでいます。
そんな現代人にとって不足しているもの。
平安や江戸の人たちと比べて圧倒的に足りないものが自然です。
本書の著者リチャード・ルーブさんによると、これは「自然欠乏症」。
自然が不足すると人はどうなる?
そして、自然を取り戻すと?
自然欠乏症とは?
自然にふれる機会がなくなることで起こる様々な問題。
人類史上初のこの由々しき現象を、ルーブさんは自然欠乏症(Nature Deficient Disorder:訳文では自然欠損障害)と名づけました。
自然欠乏症とは、
自然から離れることで人間が支払う対価であり、そこには感覚の収縮、注意力散漫、体や心の病気を発症する割合の高さが含まれる。この障害は個人、家族、そして地域にも存在しうる。(p53)
言い換えると、
人の心は、自然から離れると頑なになる。
ラコタ族は、成長するもの、生きているものへの敬意を欠いた者は、すぐに人をも尊敬しなくなることを知っていた。(p139)
ネイティブアメリカン、ラコタ族の酋長 ルーサー・スタンディング・ベア(1868頃~1939)の言葉です。
タイトルが示すように、本書は子どもに焦点をあてていますが、大人にもあてはまることばかり。
情報化・都市化が進み自然とふれる機会が限られている今、「自然欠乏症」は多くの人にとって重要な問題です。
ビタミンNの効果
自然は人間にとって必須栄養素、Natureの頭文字をとってビタミンNです。
体と心の健康には、自然にふれることが必要不可欠。
たとえば、自然のなかで過ごすとADHD(注意欠陥・多動性障害)の症状を緩和、思考力を高め、ストレスや落ち込みへの抵抗力を高めることが研究により明らかとなっています。
自然との接触によってストレスが軽減される研究事例は100以上(2005年時点)。
五感をフル稼働させるのも、自然の効能。直接的な経験と刺激で、人間の感覚は成長し続けます。さらに、自然は創造性を育む。
聞くべきは画家の言葉ではない。自然の言葉だ。物事それ自体に感じるもの、真実に感じるもの、それは絵に感じるものより重要なのだ。(ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ, p228)
読むだけで自然浴!
ルーブさんは、作家でありジャーナリスト。
丹念な取材と綿密な調査、卓越したストーリーテリング力で、本書は面白い読み物となっています。自然の眼に見えない影響力に関するたくさんの逸話を読んでいると、気持ちが高揚してきます。山歩きをしているときのような、「喜び、興奮、不思議」が反射してくる。
これが、本書の最大の魅力だと思います。
おわりに
世の中を良くするためにはほとんど役に立たない情報の滓を、誰もがどこででも手に入れられるように加工処理するために、金を使い何時間も努力するような社会は何かが間違っている。(p86)
心理学の専門家エドワード・リードさんの言葉が引用されていました。
辛口だけど的を得ている!
方向転換の時期に来ているようです。
<参考資料>情報量が10年で530倍! 届かない企業の声、急成長するMA|スマートファクトリー事業・FAプロダクツ (fa-products.jp); 総務省|令和2年版 情報通信白書|データ流通量の推移 (soumu.go.jp)