「ぼく、すばらしいことを見つけたんだ。」
とうんと声をひくめて、チトはいいました。
「花って、災難がおこるのをふせぐんだよ」
(モーリス・ドリュオン「みどりのゆび」)
12月は特別な月。
街がクリスマスで華やぐ季節。
誰もが童心に戻りやすくなる、
そんな12月に開きたくなるのが、
モーリス・ドリュオン「みどりのゆび」。
1957年に出版されたフランスの童話です。
クリスマスのお話しではないし、サンタクロースも登場しません。
なのに、なぜ12月に読みたくなるのでしょう?
みどりのゆびの力
主人公、チトは学校が苦手。
どうしても授業中に寝てしまい、放校処分になってしまいます。
困った両親は、ならば実地で人生を学べばいいと決意。
チトは、まず庭の授業を受けにいきます。
そこで、みどりのゆびをもっていることが明らかに。
見た目は普通のゆびなのに、土の中で眠っている種に触れると、たちどころに花を咲かせてしまう。
このみどりのゆびの力を使って、チトはあっと驚くようなことを次々としていきます。
そして世の中は、思いもかけぬ方向に美しく変わっていきました。
力を発揮するために必要なもの
けれど世の中を変えることができたのは、みどりのゆびの不思議な力だけのおかげではありません。
もし私たちがいつかおとなになることだけのために生まれてきたのなら、頭が大きくなるにつれて、私たちの頭の中には、古い考えがとても簡単に住みつきます。(モーリス・ドリュオン「みどりのゆび」)
不思議な力を邪魔する古い考え。
チトは、優しく純粋な心、勇気、支えてくれる仲間のおかげで、みどりのゆびの真価を発揮することができたのです。
12月に読みたい理由
実は、チトだけではないのでは?
私たちはみんなそれぞれ、不思議な力を持って生まれてきたのではないかしら。
でも、成長するにつれ、知らないうちに古い考えで頭がいっぱいになり、不思議な力のことも、純粋な心や勇気、仲間のことも忘れてしまう。
「みどりのゆび」は、昔、子どもだった私たちの心の扉を叩き、「おとなになることだけのために生まれてきた」のではないことを、思い出させてくれるのです。
それが、マジカルなシーズンに「みどりのゆび」を読みたくなる理由。
おすすめ本と動画
岩波書店から出ている愛蔵版は、ジャクリーヌ・デュエームさんのカラフルな挿絵が楽しめます。
告白すると、私は子どものとき、岩波文庫の表紙の庭師ムスターシュさんの顔がこわくて、なかなか本を手に取ることができませんでした。
表紙の絵は重要です。
子どもさんへの贈り物には、表紙にバラの花咲く愛蔵版がおすすめです。
動画なら、デンマークの女優Simone Bendixさんの作品が必見。
紙細工に、愛らしいイラスト。
本物の葉っぱや花のコラージュで彩られることも。
言語は、フランス語か英語ですが、見ているだけでもその美しい世界に魅了されます。
さすが、女優さん。
朗読には臨場感があって、さながらバックグラウンドミュージック。
12月のささやかな楽しみに、植物界の星の王子さま「みどりのゆび」をどうぞ。
ぽっと心があたたかくなりますよ♪