Green Library

心の糧になる植物の本コレクション

プランタ・サピエンス:植物の知性が照らすパラダイムシフト!

ホモ・サピエンスに対峙して、プランタ・サピエンス。

副題には「知的生命体としての植物」とあります。

「知恵のあるヒト」、ホモ・サピエンスの名づけ親は、分類学を築いたカール・フォン・リンネ。18世紀に活躍したリンネは生物界を動物界と植物界に二分類しました。

その後、知恵はヒトの特権ではなく、動物も持つことが明らかとされました。さらに、21世紀の今、植物にも知性があることが、神秘のベールが科学的に剥がされようとしています。

植物の知性に特化した研究を行う、スペインはムルシア大学MINTラボ(Minimal Intelligence Lab)の科学哲学教授、パコ・カルボさんが示す植物の知性とは?

プランタ・サピエンス 知的生命体としての植物

そもそも知性とは?

「学び、理解し、判断するもしくは理由に基づき選択肢をもつ能力(the ability to learn, understand, and make judgments or have opinions that are based on reason)」

ケンブリッジ辞典が定義さする知性(intelligence)です。

従来、私たちは「脳と認識できるもの、あるいは少なくとも十分に発達した神経細胞の拠点」が知性の源であり、ニューロン、脳、神経系を持たない植物が知性を持つはずがないとみなしてきました。

ところが、「学び、理解し、判断するもしくは理由に基づき選択肢をもつ能力」が、植物の行動にみられるのです。

知性が光る植物の行動:柔軟で目的志向型

本書にはいくつもの事例が載っていますが、ここでは2つご紹介します。

まずは、インゲンマメの「学び、理解し、判断する」の映像です。

フライ・フィッシング

インゲンマメが支柱にからみつく回旋運動を詳細に観察。まずは、つかまるものを探して、円を描くようにツルを動かすインゲンマメですが、いったん支柱を感知すると、半周したあとでツルを釣竿を投げるかのように動かします。効率的にツルをつかもうとする様は、柔軟な目的志向型行動そのものです。

百聞は一見にしかず、下の動画は著者によるセミナーですが、20分ぐらいのところでインゲンマメのフライ・フィッシングが見れます。

www.youtube.com

動かないからといって、植物は受け身であるわけではありません。

化学物質を巧みに使って、目的を達成することが知られています。

たとえば、草食動物の攻撃から身を守るため、捕食者の嫌いな成分を使って食べられらないようにするだけでなく、一段階上の戦略をとることも。

トマトの自己防衛

トマトは、捕食者であるシロイチモジヨトウの幼虫の攻撃から身を守るため、複数の化学物質を生成します。そして、近隣のトマトにも、同様の成分を出すよう伝達。耐え難い味に変化したトマトの葉を、シロイチモジヨトウの幼虫は食べなくなります。食べ物がなくなった幼虫は、互いを攻撃するようになっていく。草食だった幼虫が肉食となって種内捕食、共食いをするようになり、捕食者の総数を削減するという、ちょっと恐ろしい調査結果がウィスコンシン大学のチームより報告されています。

動物と植物の体の構造は全く異なります。高い再生産能力をもち分散型である植物は、集約型である動物のように脳を持つ必要がない。だからといって、植物に知性がないとみなすのは人間の偏見ではないか、と著者は問いかけます。

おわりに

植物に神経系があるか否か。

実は、数十年前から続く論争です。

いわゆるオーソドックスな植物生理学者たちは、植物が行動するという考え方を受け入れません。本書の著者は哲学出身、学際的なアプローチで知的癒着状態を打破できるのでは挑んでみたものの、先方は著者たちの論文を攻撃する論文を発表。植物の意識という概念は有害かつ危険とみなし、資金提供機関には出資を、学術誌には論文の掲載を拒否するよう働きかけているそうです。

それでもなお、研究を続けるプランタ・サピエンス一派の真意は、

「植物に対する見方を変えれば、この世界を見る目も劇的に変わる。」

人間至上主義、還元主義的な科学からの離脱に手を貸していくれている植物です。

<参考資料>INTELLIGENCE | 意味, Cambridge 英語辞書での定義#894 Paco Calvo - Planta Sapiens: The New Science of Plant Intelligence - YouTube